オーフィアス組曲 1章「春雷」

(きゃらん きゃらん ぎゃら ぎゃら ぎゃらぎゃら)

「大変だぁ。金貨がこぼれおちてる。生み過ぎだよ、亀さん。」

しろはおしるしにかけより、蓋をあけました。

M 明珍風鈴の音と金貨のこぼれる音

「ノアさん、これ持っていかない?」

しろは金貨を無造作につかみとり、黒い袋に放り込んでいます。

「もらっていいのだろうか?こんなお宝、僕に・・・いいのだろうか!」

「この金貨を受け取ると、大きく変わっていくんだよ。今までとは全く違った生き方になるんだよ。母は、大切だと思えるお相手にプレゼントしてほしいと、手紙に書いてきたのさ。」

しろは黒い袋に封印をして、ノアに渡しました。

「じゃあ僕も、大切だと思えるお相手には、プレゼントすればいいんだね?」

「うん、母はそれを望んでいるんだよ。これは、天国の母から届いた手紙なんだけどね。読んでみたら、ノアさんへのプレゼントの意味がわかるよ。」

しろは引き出しからとりだし、ノアに渡しました。

——-

『じゅりさん、しろさんへ お元気ですか?お母さんは今、アンドロメダ座のアルフェラッツという星に滞在しています。アンドロメダの銀河は青や黄色の光をたいまつのように燃やして、ショーを披露してくれます。夢と幻の狭間で揺れながら、気がつくとハンモックで眠っていたりして・・・。エメラルド色の目をした子犬が三匹いて、そよ風のように柔らかなテンポで、ハンモックを揺すってくれます。時間の感覚はなく、まどろみの夢は際限なく続きます。

      お母さんはあなたたちと別れて、どのくらいの時間がすぎたのか、全くわからないのです。こちらに着いたことを知らせなければと、気ばかり焦っていたけど、うまくいかなくて。でも今日は子犬たちが、サザンクロス方面へ嵐列車が出発することを教えてくれたので、風の大将にお願いしてプレゼントを乗せてもらいました。ちょっとばかし乱暴な贈り方になったかもしれないけど、そこは大目にみてやってくださいね。

      ところで重箱の亀さん、必要な時に必要なだけ金貨を生むのです。金貨を誰かに差し上げると、今までの生き方は大きく変わるでしょう。転機を迎えるのです。いいと思っていたことが本当は悪かったり、悪いと思っていたことがよくなったり・・最後にはそれぞれにとって本当の意味で幸せが訪れます。

      そして関わったものたち全ては、金貨の輝きのようにだんだんと輪が広がり、つながっていきます。あなたたちもいずれは輪の中に入ることになるんですよ。そのときまで、亀さんを大切にしてあげてください。風呂敷にいつも包んでおいて、大切だと思えるお相手だけに、見せてください。

お母さんはいつも、あなたたちがたくましく生きているのを頼もしく思って、眺めていますよ。

                                                宮之島とし

追伸:しろちゃん、重箱をあけると流れるメロディ大切にしてね。それを曲として仕上げてくださいな。じゅりちゃん、お料理は他の種族のためにも作れるようにしなさいよ。役にたつから、絶対に。』

——-

「しろさん、あのメロディを完成させて曲にするんだ。楽しみだなぁ。」

「うーん、大まかには、自然と音楽が一体となっていくような大きな曲調にしたいんだよ。わたしは指揮もピアノもやるつもりなんだけど、一人では無理な部分もあるんだ。誰かにメインの演奏を手伝ってほしいと考えている最中さ。」

「あのぉ・・・・僕は・・・僕ではだめ?僕に手伝わせてもらうことはできないだろうか?しろさんのさっきの曲を聴いてたら、興味が湧いてきた。だって、嵐と競演してるんだもの。僕、空を見上げながら、演奏したいなぁなんて、たった今、思ったよ。」

「良かったぁ!ノアさん!ピアノ弾くのが辛いなんて言ってられないぞ。一緒に楽しもう。そうだ!思いついたぞ。ノアさんが言ったように、空をみあげながらお披露目ができたらいいなぁ。コンサートは外でやろう!決めたっ!」

「僕、嬉しくなってきた。わけもなく、嬉しくなってきたよ。」

西の空がほんのりと赤らんで、大きな虹がかかりはじめました。

「しろちゃん、しーろーちゃーーん。虹が出てるよ。」

リビングのじゅりが呼んでいます。

「今年になって初めての虹だよ。見てーーー、しろちゃーーーん!」

「あらっ、じゅりちゃん帰ってたの?大声出さないで、こっちへ来て話せばいいじゃないの。」

「さっきの嵐で、ずぶぬれだよ。今身体を乾かしている最中!動けないよ。しばらくしたらまた畑に行ってくる。キャベツは収穫できたけど、まだ取り残した野菜があるからね。」

「うん、わかったぁ。」

   ノアは背伸びして、窓の外をみています。

「嵐が空を掃除していってくれたよ。虹が架け橋がみたいに伸びていってる。」

「こういう虹が出たときにはね、誰かが虹渡りをする準備をしているの。わたしの母が虹渡りをしたときもちょうどこんなだったなぁ。」

しろは窓を開けて、澄んだ空気を吸い込みました。

「僕の父さんや母さんも、いつかは天の住民になって、おしるしを送ってくれるのだろうか?」

「そう、虹の女神に手をひかれてね。ノアさんの気持ちがほどけた頃、おしるしが届くんだ。」