オーフィアス組曲
音楽と文章からなる作品「オーフィアス組曲」を制作中です。動物たちが現実と幻想の世界(生と死)を行き来します。彼らを通じて、「あるがままに生きる」ことを体感する作品でもあります。
わたしは常々、生きることに意味づけし、考え込んで生きることに疑問を感じていました。
自然は采配を振り、喜びや悲しみをつれてくる。不条理な結果であっても、条理につながることすらある。人にとっては畏怖であっても、自然にとっては無為なること。生きとし生けるもの全ては、自然の流れにそっている。
自然界の中の無力で、無知なる存在のひとつとして、われわれ人間の存在があるのではないでしょうか?
登場するキャラクター(動物)は擬人化されております。擬人化の理由がわからないと、ご指摘を受けたことがありますが、それは2009年に亡くなったぬいぐるみ作家の存在にありました。
故宮島登志子さんは才能溢れる作家で、これから独自の作品を作ろうとなさっていた矢先に、53歳の若さで亡くなりました。彼女が若かりし頃に制作したうさぎたち、痛み止めを打ちながらも死の直前まで作り続けた猫たち。彼、彼女らに息を吹き込み、生き物にすることが、亡き登志子さんの思いに応えることの一つではないかと、私は考えたのです。
彼女が亡くなる二ヶ月前、直接お電話がかかってきたことがございます。「私はもう長くはありません。猫さんはいりませんか?生みの親より育ての親と言いますから。」と話されました。彼女は生きた証として、自分の作品が作りたかったのだと思います。瀕死の状態だと伺っていましたので私も非常に迷いましたが、ご本人の強い意志を汲み取って、ぬいぐるみの猫一匹を作っていただきました。
このような経緯があり、なんらかの形で彼女の作品を広めたいと思い始めたのが、2009年秋。「育ての親」としての私にできることは何か?と考え続けた結果、文章と音楽からなる作品の創作にかかることを決意しました。私も過去から続けてきた仕事からの、方向転換を目指しておりました時期だけに、運命的な出来事であったと感じております。
原初に戻る
2010年から手がけてきた文章は、2013年を境に、マインドフル(あるがまま)な物語へと成長していきます。
楽曲も、修正に次ぐ修正を繰り返し、ようやく自分自身の出発地点に立ち返るところまできました。
わたしは山奥で生まれました。秋になれば目の前の山が紅葉し、赤とんぼが群れをなし、やまびこが響き渡る。炭焼き小屋があって、裏では野菜を作っていて、水道がなく、井戸水でスイカを冷やすような毎日。
明け方には金星が煌々と輝く中で、歯を磨く。冬には軒下につららが下がり、歩くと霜柱の小気味よい音が響いて気持ちが良い。
自然の中で、わたしは創作と音楽を始めたのです。英才教育を受けたわけでもなく、詰め込まれるような環境にもいない・・・この自由さが今のわたしを形作っているのです。
オーフィアス組曲を通じて、原初に立ち戻ることになったと感じています。
2017年春 花笑みの日
2017年春、東京の桜の開花日に、父は亡くなりました。同時に、作品の方向性も大きく変わりました。父の唯一の希望は、「作品(オーフィアス)を鑑賞したい」というものでした。
わたしの作品が出来上がるのを心待ちにしていたと確信しております。
しかし、「孝行のしたい時分に親はなし」のことわざどおり、私は父の希望を叶えることができませんでした。
亡き父への思いを胸に、2017年末、新たな一歩を歩み出しました。父には遺言というものがありませんでしたが、「音楽が聴きたい」と申していたことを遺言と受けとめ、創作に邁進する日々が続いています。
あるがままに生きる
父が還暦になる手前、重度の神経症を患ったことがあります。亡くなってもおかしくないほどの病状でしたが、京都三聖病院の宇佐晋一先生の教えを受け(治療を受け)、「あるがまま」という思想を胸に人生を方向転換したのです。(その後30年間、現役で医師を続けましたので、命をもらったとも考えられます。)
オーフィアスの世界観は「あるがまま(マインドフル)」です。あるがままとはありのままとか、自然体でいることではなく、生きることに意味づけをしないという思想です。
自我をなくし真っ白な世界を得て、新たな境地を開くとでもいいましょうか?
このようなある意味、仏教的な世界観が、わたしの中に自然に形成されていたことは、亡き父の影響が大きかったと思わざるを得ません。
2018年11月24日には、オーフィアス組曲中の楽曲「addictus」(ピアノデュオ版)が国際ピアノデュオ作曲コンクール本選会においてお披露目され、カワイ賞を受賞いたしました。この出来事は大きな転換点となりました。
加えて2010年からの紆余曲折、七転八倒の日々にも一応のピリオドが打たれたことは、心の変容によるものではないかと考えています。
オーフィアス組曲は、成長を続ける作品であるのでしょう。作品の成長と共にみなさまへ「心の輪」を広げることができるよう、願っております。